【クラクラ小説】 「TH1。ゴブリン、襲来」

2016年5月28日

ここではない場所。いまではない時代。

小さな村がありました。


その小さな村には少しの村人と、すこしの大工と、それを束ねる年取った村長がひとり、住んでおりました。


その村はそれほど豊かではありませんでしたけれども、山も海も近くにありましたので食べるには困らない程度の食べ物は簡単に得ることができました。


それと材木。石材も。

そしてそして、ほんのちょっぴり、「金」も採れたのでした。


Gold_Mine1

その村で採れる金鉱石の質は良く、すばらしく価値があるのものでしたので、近隣の村々から、住人たちの生活に必要なものを買い付けるのに、大変、役立っておりました。


しかしその金の噂に誘われて、よこしまな心を持ったものたちがやってきました。


ゴブリンです

ゴブリン

この醜い、欲深い、卑怯な、緑の小鬼たちは金銀財物に目がなく、ちょくちょく村にやってきては、村の金庫に押し入って、なけなしの金を無理やり、奪って帰っていくのでした。


村人たちには戦う力も気力もありませんでしたので、いつもいつも泣いて暮らしておりました。


そんなあるとき、よく晴れた日。いつもと同じようにゴブリンどもが村を襲いにやってきました。

村人たちは急いで村長の家…「タウンホール」にかけこんで、部屋の隅に固まって、あとは震えておりました。


100px-Town_Hall1

建物の外で聞こえる略奪の喧騒。


ゴブリンが金貨を自分の袋に詰め込むジャラジャラという音。品のない笑い声。


今日はいつもよりそれが長く聞こえます。

悲しそうな顔をした村長が、扉を開けて、こっそり外の様子をうかがおうとしたそのとき。

そのまま村長のわきを通りすぎて、扉から勢いよく外に駆け出たものがおりました。


村長の、孫娘でした。


その少女はまだ10にもならない幼なさながら、たいへん勇敢でしたから、自分の村をゴブリンが荒らすのにがまんできず、なんとか一泡ふかせようと前々からたくらんでいたのでした。

今日がその日でした。


村長やほかの村人はあわてて追いかけましたけれども、女の子は風のように走り去っており、その姿を見つけることができませんでした。

(実はすぐ近くの、大きな岩の陰に座り込んで隠れていただけでしたけれども)


孫娘(名前をペトラといいました)は勇敢ですが、賢い子でしたから自分ひとりでゴブリンたちをどうにかできるとは思っていませんでした。


さてどうしようと岩陰に座り込んで、両手でほっぺをたたいて思案にくれていたそのとき。


目の前に誰かが立っているのに気づきました。


顔をあげて仰ぎ見るに、緑の服を着た、青い目をした、茶色の髪の若い女性でした。



ペトラより6つか7つ、年上でしょうか。

手に、細長く丸めた紙を持っています。


ペトラは慌てて尋ねました。


「あなたは、だれ?」


若い女性はそれには答えず、逆にペトラに聞きました。


「ゴブリンが嫌いですか?」


ペトラは叫ぶように答えました。


「大嫌いだよ!」


その若い女性は表情をかえずにうなずいて、手に持つ紙をペトラに差し出しました。


「広げてみてください」


ペトラがおずおずとそれをうけとって、言われたとおりに広げ開けると、そこには見たこともない、「鉄の筒」の絵が描かれておりました。


「それは大砲の設計図です。ペトラルカ=チーフ」

Cannon1

ペトラはびっくりしました。「大砲」とやらにではありません。

この女性は彼女と初めて会ったのにも関わらず、ペトラの名前を(しかもフルネームで!)知っていたのですから。

女性は驚く様子のペトラに構わず、その「大砲」の機能と作り方を簡単に説明しました。

ペトラは賢い子でしたから、それさえ作ればあのゴブリンの大軍をやっつけられると知りました。


「この大砲は簡単な作りですから、腕のいい大工さんがいれば、すぐにできますよ。チーフ」


ペトラはうなずくやいなや、すぐにタウンホールに駆け戻って、祖父である村長に急いで事情を説明しました。


村長は、勝手な行動で自分に心配をかけたペトラにたいへん、腹が立ちましたけれども、積もり積もったゴブリンへの怒りはそれとは比べ物になりませんでしたから、村一番の大工を呼んで、図面の通りに大砲を作るように言いつけました。


大砲は、ありあわせの錫の筒を転用して作ることにしました。


幸い、この村にはもともと、「火薬」はふんだんにありました。(金山がありますから!)


これならすぐできる、という大工の言葉に安どした村長とペトラのところに、先ほどの緑の服の娘が歩み寄ってきて言いました。


節約している場合じゃありません。緑色のエメラルドを使って建設を早めるのです!」

エメラルド

ペトラと村長はよくわからないながらも、それもそうかと、村に代々伝わる緑の秘石「エメラルド」をタウンホールの奥から引っ張りだしてきました。


この「エメラルド」は村長一族の血と汗と涙からできているという伝説がありましたけれども、この非常事態にそんなことは言っていられません。


使うときはいま。


…あとでペトラはこの無駄遣いを大変後悔しましたけれども、このときは、確かにそう思ったのです。


そして村長はエメラルドをひとつぶ、作業中の大工の肩にそっと置きました。


すると大工は光に包まれ、大砲はあっという間に出来上がりました。


エメラルドは消えておりました。


若い娘はそれを見て満足そうにうなずいて言いました。


「大砲を村の真ん中に置きましょう。村の中心であるタウンホールを守らないと!」


その通りに大砲が、置かれました。


するとそこに、運悪く(運良く?)ゴブリンが通りがかって、ペトラたちを見つけて言いました。


「ぎゃわはは!なんだなんだ?またよわっちいニンゲンか?」


それを見た大工は、あわてて(図面に書いてあった通りに)大砲に弾をこめると、こちらに歩いてくるゴブリンに狙いを定め、導火線に火をつけました。まもなく、大砲から勢いよく飛び出した弾丸はゴブリンの腹に正確に命中し、あとかたもなくバラバラに吹っ飛ばしました!


それを見た村人たちは歓声をあげ、手をたたいて、飛び上がって喜びました。


それからはもうその調子で、次々と、ほかのゴブリンたちも強力な大砲によって倒されていきました。

そして村からゴブリンが一掃されたのです。


ペトラは胸が、すっきりしました。


緑の服の娘は、笑顔のペトラ向っていいました。


「ふう、あぶないところでした、チーフ!村は地脈の上に建てました。大砲は時間さえたてば魔法で自動的に修理されます」

…ペトラは大砲を見ましたが、傷一つついていません。

ぴかぴかしています。


ペトラは正直、この緑の服の娘が、何を言っているのかよくわかりませんでしたけれども、そういうものかと無理やり納得しました。


すると娘はすこしだけ怖い顔をして言いました。

「チーフ、ゴブリンはまだこの村を狙っています。ゴブリンの本拠をたたかないと、いつまでもこの村への襲撃は、やみません!」

「でも」。ペトラは首を振りました。

「この村には戦える人なんていないから」。


娘はペトラをさとすように言いました。

「兵舎を作りましょう。強力な、強い兵士を雇うのです」

「雇う!」

村人ではない兵士を、雇う。その発想は、ありませんでした。

この娘はいったいなにものなのでしょう。

ペトラはふと気づいて尋ねました。

「あなたの、お名前は?」


「村人です。ただの、村人」。

そういって娘はにっこり笑うと、すぐそばの木に向かってポンポンと手を叩き、何かを祈るようなしぐさをしました。


その意味がまったくわかりません。

正直、気味が悪いです。

「さあ、チーフ」


村人と名乗った娘は、ペトラのほうへ向き直り、片手を差し伸べて、透き通るようなすてきな笑顔でこう言いました。

 

「チーフ。戦いの、始まりです」