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【クラクラ小説】TH7 ドラゴン

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ここではない場所。今ではない時代。ペトラルカ=チーフの物語。

ペトラルカとヒーラーは、夕暮れ時、エアバルーンの爆撃により崩れ去った村のがれきの中を、ふたりで見回っておりました。

けが人はタウンホールに収容し、ヒーラーによる手当は終わっています。

ペトラルカは、足元のがれきを踏まないようにゆっくり歩きながら、悲しそうな顔で言いました。

「なんでこんなことするんだろう」

ヒーラーはそれには答えず、ふっと腰をかがめると、道端から何かを拾いました。

彼女の手にあったのは小さな布袋でした。

「それは…?」

「財布だね」

ヒーラーは財布を、逆さにしてふりました。中からはなにも出てきません。

「この中身を抜き取ったの、たぶんこの村のだれかだよ」

「そんな…」

「わっるいやつもいるもんだよねえ。爆弾が落っこちてきて、みんな、生きるか死ぬかの瀬戸際だっていうのに。ちゃっかり、落ちてた他人の財布から金貨を抜き取るってんだから」

ペトラは唇を噛んでうつむきました。

「ペトラ、あんたに覚えておいてほしいんだけど」

ヒーラーは言葉を選ぶようにゆっくり言いました。

「この世は天国じゃない。この村は理想郷じゃない。敵が悪くて、こっちが正しいって言いきれるもんじゃないってことをさ」

「…わかってるよ」

ペトラが辛そうに小さな声で言いました。ヒーラーはすこし表情を優しく崩しました。

「でもさ。あんたはいいやつだよ。だからさ、あたしはあんたを助けたいと思うし、あんたの村づくりを手伝うよ」

ヒーラーの言葉に、ペトラはしばらく沈黙した後、言いました。

「私はどうしたらいいんだろうね。これまでずっと、ゴブリンが憎くて嫌いでしかたなかったけど。一番怖いのは人間なのかなって。最近思ってるよ」

「ま、あんたはいいやつだよ」

「…」

「あたしバカだからよくわかんないけどさ。あんたはあたしが見てきた人間たちの中ではずいぶんマシなほうだと思う。だからさ、なんていうかさ。あんたが村を大きくしていけば。殺すとか壊すとかじゃなくて、治すとか癒すとか。そういうのが、かっこいいって言われる世の中になっていく気がするよ」

ペトラは笑いました。

「いいね、そういうの」

ヒーラーは鼻をすすって胸を張りました。

「そういう世界なら、あたしはヒーローになれるしね」

ペトラは笑顔のまま、がれきのむこうに見える見える輝く海の、水平線を見つめながら、思い切り伸びをして言いました。

「大きくなりたいなー。わたし、大きくなりたい。そんで、強くなりたいよ」

ヒーラーは苦笑いしました。

「いや、トシなんてとるもんじゃないけどね」

「あたしはトシとりたい。トシとって、強くなって、みんなを守りたい。悪いやつをみんな倒したいっ」

海に沈む夕日。ヒーラーは、清らかな赤い光に照らされるペトラの横顔を、じっと見つめ続けておりました。

そして、それから3年の時がたちました。

破壊された村も完全に復興しました。

対空砲も整備され、もはやエアバルーンも怖くはありません。

魔法使いの「スペンダー」が「ラボ」を建て、ユニットの武器防具の強化も進めました。

スペンダーが開発した武器は旧来のものとは段違いの性能で、口の悪いアーチャーも、新型のコンポジット・ボウの試射をしたとき、その威力に感嘆しきり。褒めちぎるほどでした。

いっぽうで、ますます激しさを増すクランどうしの抗争。ペトラの村もその戦いに巻き込まれ、何度かほかの村と戦火を交えました。

しかし、ペトラ軍はクラン戦で活躍できない日が続きました。

「ドラゴンがいないからな」

そう断言するのは、ペトラと同じクランに所属する、ユリウスという若者でありました。

ユリウスは、14歳になったペトラより5歳年上の青年です。

年取った村長の多いペトラのクランの中では比較的若く、年も近く、なにかとペトラに助言(あるいはちょっかい)を出してくるのでした。

彼はドラゴンラッシュ、すなわちドラッシュの達人で、対戦でも「エース」として活躍しておりました。

おまけにユリウスは颯爽とした容姿の持ち主でした。
ユリウスのことをヒーラーは「いい男だわー」と言いますし、何かと辛口の村人も「顔は悪くないですね」と評します。

しかしペトラはその点、あまりぴんときません。
ペトラはなんといっても、グローバルチャットで出会った黒マントの男、カールが憧れのひとでした。

とはいえ、それは単なる憧れにとどまり、恋だの愛だのといったことは程遠い、実務的な毎日をすごしていたのですが。

ペトラはその青年ユリウスに聞きました。

「ドラゴンって、どうやったら私の村に来てくれるのかな」

「そりゃお前、ドラゴンの島に行くことだよ、うん。」

ユリウスは腕を組んでもっともらしく言いました。

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「俺も、行った」

「ドラゴンの島…?」

「その島には、ドラゴンがたくさんいる。うっじゃうじゃいる。そこを仕切るドラゴンの長(おさ)にエリクサーを差し出して、これだっていう竜を買い取るんだ」

「奴隷市場みたい」

ペトラはすこし眉をひそめましたが、ユリウスはそれを否定しました

「そんな一方的なもんじゃないぞ。相手のドラゴンには拒否権がある。仕えるに値しないって思われた主人のところにはいかなくていいんだ。その点、俺はほれこの通り、ドラゴンに主人として認められ、ドラッシュのユリウスといわれるまでに、なったけどな」

胸を張ったユリウスの横から村人娘が口をはさみました。

「まあ、そんなにむつかしいもんじゃないみたいですけどね。エリクサーをたっぷり払えば、比較的誰でもドラゴンの主になれるみたいです」

「誰でもって」

ユリウスは口を尖らせました。ペトラはうなずきました。

「じゃあ、行こう、ドラゴンの島」

決めたら早いペトラには村人もユリウスも慣れっこです。

ドラゴンの島に向かうのは、先導役としてユリウス。ヒーラー。そしてペトラの3名でした。

村人娘は村に残ることになりました。

「なんで私が留守番なんですかあ」

不満をもらす村人娘に、ペトラは困ったように笑いました。

「だってヒーラーが、『ユリウスが行くならあたしも行くって』といって聞かないんだもん」

村人娘は頭をふりました。

「本当に元天使ですかあの人。俗世の欲に、まみれすぎですよ…」

それから急いで準備を整える一行のもとに魔法使いの「ブリュワー」が息せき切ってやってきて、紫の液体が入ったガラス瓶を渡しました。

「これは…?」

「新しい呪文ですぞ!」

「呪文?」

「レイジですぞ。兵士の怒りを増幅させ、速さと強さを飛躍的に高める魔法です!もし何か困ったことがあれば、これを床に叩き付けなさい。そうすればものすごい速さで逃げられますぞ!」

ペトラはお礼を述べると、すぐにドラゴンの島に出発しました。

港町にたどり着いた一行は、ドラゴンの島に行くために、定期便の船ならぬ「ドラゴン」に乗っていくことになりました。

生まれてはじめてドラゴンに乗って空を飛んだペトラは興奮しています。

「すごいねえ。ドラゴンの島には、ドラゴンに乗っていくんだねえ」

ペトラの前に乗ったユリウスは訳知り顔でうなずきました。

「まあ、といっても、こいつはドラゴンの中でも戦闘型ではなく、移動用だけどな」

「移動用?」

「人が乗って、移動するための。船とか馬みたいなもんだな」

ペトラは自分のまたがるドラゴンの顔をのぞき見ました。ドラゴンは眠そうな目のまま、無表情で飛行をつづけます。

ユリウスは続けます。

「ひとくちにドラゴンといっても、生まれたときから厳しい選別があるんだ。強さ、賢さ、見た目…本当にすぐれていると認められたドラゴンだけが戦闘用として、各村に配備されるんだ」

じゃあこのドラゴンは、と言いかけてペトラは言葉を飲み込みました。その選別から漏れた竜なのだと思うと、なんだかすこしかわいそうに思えました。

「あ、島に着いたら、ガーゴイルに気を付けろよ」

ユリウスはペトラに向かって注意を促しました。

「ドラゴンの島は、小悪魔ガーゴイルが虎視眈々と狙ってるらしい。偵察用のガーゴイルが潜んでいるかもしれない。一人で森とか、歩くなよ。ペトラ」

それを聞いたヒーラーは甘えるように言いました。

「ねえ、ユリウス。私にもガーゴイルに気を付けろよって、言ってよ」

「っていうかヒーラー、お前はガーゴイルの親戚みたいなもんだろう。大丈夫だよ」

その後、ちょっとした喧嘩はありましたが、そうこうしているうちに、一行はドラゴンの島に到着しました。

さっそく、島の竜たちを統括している「長」に会いにいきました。

赤い竜の「長」は、ペトラの願いを聞くと間髪入れずに断りました。

「だめだ。ドラゴンは、お前の村には派遣しない」

「へっ?」

ユリウスは素っ頓狂な声を出してしまいました。

「なんでだよ。俺の時はすぐに、ドラゴンを用意してくれただろうが」

「事情が変わった。駄目なものは、駄目だ。帰るのだ」

長の意志は固いようで、話し合いになりません。どのように説得してもうんとは言いません。

不承不承、天幕の外に出た一行の前にいたのはあの、グローバルチャットで出会った、白いマントの男、ルドルフです。

後ろには前と同じく、数人の兵士が護衛に付いております。

ルドルフはにやにや笑っていいました。

「貴様ら、竜をもらえなかったのか」

ペトラはうなずきました。

「俺がマスタードラゴンを探しているからだな」

「マスタードラゴン?」

「竜の中の竜。俺のような偉大な男に相応しい竜だ」

「だから、何?何が言いたいの?」

「ああ、俺がこの島の竜からマスタードラゴンを探し出すまで、お前たちは竜をもらえないことになっている」

ユリウスは叫びました。

「なんだよそれ!」

ルドルフは楽しそうに笑いました。

「俺のクランは、この国で1番の領土の大国さ。その大国が選りすぐりの竜を探しているんだ。お前らのような無名クランの連中は、俺の選びのこしで十分さ」

怒りで剣の柄に手をかけたユリウスをペトラは素早く制して「いこ」とその場を立ち去りました。

それからもユリウスの怒りは収まりません。

「嫌な奴だな、ほんとあいつ」とグチグチ言っています。

「気にしても仕方ないから。これからのことを考えよう」

ペトラは困ったように笑ったあとでふと、小さな丘の上に体を横たえ、羽を休める竜を一匹、見つけました。

「あ、さっきのドラゴン」

先ほど、港から島に乗せてきてくれたあの竜です。

ペトラたちは近づき話しかけました。

「さっきは私たちを運んできてくれてどうもありがとう。」

竜は片目を開け、小さな声で「よいドラゴンはもらえましたか」とたずねてきました。

そのしわがれた声で気づきましたが、竜はどうやらかなりの年寄りのようです。

「もらえなかったの。大きなクランの人が、いい竜を探すのを待たなきゃいけないんだって」

ペトラが残念そうに言うと、老竜は少しだけ驚いたように言いました。

「クランの大小でひいきするなど、昔のここでは考えられないようなことなのだが…ガーゴイルの脅威に、長も政治的な判断をしたとみえる」

それを聞いたヒーラーは不思議そうに言いました。

「ガーゴイルなんて、ドラゴンから見れば格下でしょう。怖がる理由がわかんないんだけど」

老竜は首を横にふりました。

「たしかに一匹一匹の力はドラゴンのほうがはるかに上でしょう。ただドラゴンは数が少ないのです。ガーゴイルに比べれば。なので恐れておるのです」

竜は目をはっきり開いて言いました。

「今回は、不愉快な思いをさせて申し訳なかったです。今日は私が島を、案内しましょう。竜の島を、嫌いにならないでいただきたい」

「ありがとう。ご親切に」

ペトラたちは竜の好意を受け取り、竜の島見物に出かけることにしました。

島はそれほど大きくはありませんでしたが、名所と呼ばれるところはたくさんありました。

目もくらむような瀑布。うっそうと茂ったジャングル。活火山を竜に乗って上から覗き込んだペトラは噴き上がるマグマに息をのみました。

「豊かな島です。火も水も風もある。だからガーゴイルに狙われる」

竜はそう悔しそうに、言いました。

「私に戦える力があればいいのだが…私はあいにく移動用だから…」

そう自嘲する老竜は確かに、普通の竜に比べ立場が劣るらしく、向こうから跳んでくる美しいドラゴン(おそらく戦闘用)に道を譲り頭を下げて通り過ぎるのを待つなど、気を遣っているようです。

「なんだかねえ。世知辛いねえ。竜の世界にも身分制度があるってか」

ユリウスがあきれたようにいうと、老竜は無感情に答えました。

「ここは理想郷ではありません。身分の上下も、差別も、政治もあります。人間の国といささかも変わりはありません。そういうものです」

「理想郷じゃなくっても。どんなにきれいじゃなくっても」

ペトラは竜に向かって語りかけるように言いました。

「それに近づくといいなって。そうしようって。私はいつもそう思ってるよ」

竜は何も答えず、ゆっくり旋回して、地面に向かって降下していきました。

ペトラはふと思いついて竜に名前を尋ねました。

竜は戸惑った声で言いました。

「こんな仕事をしている私が、人間に名前を聞かれるのは初めてです」

「そう。なんかうれしいな。教えて」

「私の名前は『橋渡し』といいます」

「面白い名前だね」

「子供のころ、戦士として選別されなかった私は、海と島を往復するこの仕事につかされ、数百年とやってきました。そしていつの間にか『橋渡し』という名前がついていたのです」

「気分を悪くしたら申し訳ないけれど」

ペトラは恐る恐る尋ねました。

「戦いたい?」

竜はびっくりしたように瞬きを数回、繰り返しました。

「私が戦士に?考えたこともありません」

そう言って竜は押し黙ると、それから何を聞いても答えてはくれませんでした。

陸地に戻り、ユリウスは大きく伸びをし、ヒーラーは風で乱れた髪に櫛を入れており、竜は息を整えながら水を飲んでいます。

ペトラは何かを考えこんでいるようでしたが、決心がついたように、自分の思いを話し始めました。

「私、この竜を、村に連れていきたい」

「えっ?」

ユリウスは眼を丸くしました。ヒーラーも意外そうな顔をしています。橋渡しもぎょっとして、素早く首を振りました

「私には…戦う力はありません。落ちこぼれの老いぼれです。ご迷惑をおかけするだけです」

「でも、戦いたいでしょう?戦士として」

竜が黙るとペトラは言葉を続けました。

「この子と話してみて思ったんだけれど、すごく戦いたがってるんだなって感じた。それにすごく優しい。賢い。才能とかなんとか。そんなのは関係ないよ。この子がいいんだ。私に必要なのは、この子なんだ」

ユリウスはあきれたように天を仰ぎました。

「正気かよ…。言っちゃ悪いけど、剣じゃなくてホウキを戦場に持っていくようなもんだぜ…?」

老竜はペトラをじっくりと見ています。そして「私には、できません」とつぶやくと、ゆっくり頭を下げました。

一行は仕方なくひとまず宿に戻り、その晩はゆっくり休むことにしました。

その夜半のこと。

宿の外でカラスが鳴くような声と、バサバサという羽音が聞こえ、一同は目が覚めました。

ペトラが恐る恐るカーテンを開けて見ると、窓にびっしり、ガーゴイルが張り付いているのが見えました。

無 題

悲鳴を上げて後ずさるペトラをかばうように、ユリウスが剣をもってその前に立ちふさがりました

ガーゴイルのうち一匹が、ガラスの窓を割ろうと、爪の生えた手を振りかぶった、そのせつな。

業炎が窓の外を通り過ぎ、次の瞬間、ガーゴイルはあとかたもなく消え失せていました。

「橋渡しさん…?」

窓の外にいたのは、橋渡しと呼ばれた竜でしたが、その姿は昼に自分たちを案内した、年老いた竜とはかけ離れたものでした。

目からは炎が噴き出て、翼は大きく広がり、その爪は鋭く飛び出ています。

ペトラと目があった次の瞬間、老竜は大地を蹴って空へ飛翔すると、雲霞のごときガーゴイルの群れに、突っ込んでいきました。

あっというまにガーゴイルの大群に囲まれた「橋渡し」は、無残にも翼やのどに噛みつかれ、苦痛の表情になりましたが、大きく息を吸い込むと真っ赤な炎を吐き出し、敵を次々と、焼き払いました。

彼の咆哮は高く、大きく夜の闇に響きました。

「落ちこぼれ」と呼ばれたドラゴンが、いま、翼を大きく広げ、たった一人で、勇敢に無数の敵と戦っているのです。

「あいつが…」と、日ごろ橋渡しをさげすんでいたドラゴンたちは、飛び立つでもなく、畏れるように天空を見上げておりました。

その鋭い爪と牙、そして炎でガーゴイルを次々とほふる「橋渡し」。

しかし紫の悪魔は次から次へとやってきます。

血だらけになりながら戦う「橋渡し」の姿を見ていたドラゴンたちは、おたがい顔を見合わせ、意を決したように、一匹、また一匹と次々と飛び立ち戦いに加わっていきました。

ドラゴンの数は圧倒的に不利。しかし竜と悪魔の熾烈な戦いは、天空を炎と悲鳴で彩って、いつまでも続くかと思われました。

そのときペトラははっと、背嚢にしまったびんのことを思い出しました。怒りの呪文「レイジ」です。

急いでそれを取り出すと、思い切り、「橋渡し」のいる空に向かって投げつけました。

すると、空中でびんが割れ、紫の波動があたりを震わせたかと思うと、ドラゴンたちは圧倒的な怒りの渦に叩き込まれました。

自分の故郷を侵される怒り。

仲間を傷つけられた怒り。

竜のその力はすさまじく、不利な戦況をものともせず、尽きるともしれない紫の悪魔どもを、あっという間に駆逐していきました。

とくに橋渡しは、その、屈折したこれまでの生涯の怒りをぶつけるかのように、もっとも勇敢に、そして捨て身に戦い続けました。

「怒りは、臆病者の武器だ」

竜の長は、老竜の戦う姿から目を離さずに言いました。

「マスタードラゴンは、血筋ではない。才能でもない。自分の誇りと、大切なもののために、怒り、戦うことのできる者のことなのだ」

長は絞り出すように言いました。

「私は何を見ていたのだろう。『橋渡し』が、マスタードラゴンだったのだ」

そして最後、わずかに残ったガーゴイルに対し、「橋渡し」は大きく咆哮すると、ありったけの力を振り絞って、怒りの炎を吐き出しました。

炎に焼かれた悪魔は消し炭となり、島に敵はいなくなりました。

その次の瞬間「橋渡し」は力尽き、落下。大地にその身を叩き付けました。

ペトラ、ヒーラー、ユリウスが走って駆けつけました。

ペトラは叫びました。

「ヒーラー!治してあげて!早く!」

「ごめん、あたしドラゴンは、治せない…」

ペトラは口を押えて震えました。「橋渡し」は目の焦点をぼやけさせながら、しかしやさしく言いました。

「ごめんなさい、もうあなたの役には立てません、ペトラ」

ぐったりするドラゴンの前にひざまづいたペトラは涙を流しながら首をふって、手を震わせながらその頭をなでました。老竜は言葉を継ぎました。

「わたしは、このとしになるまで、自分をおちこぼれだと思っていました。なにも人に優れたところのない、平凡なつまらない竜だと。そしてこのまま死んでいくのだろうと。朝から晩まで働いて、誰とも話さず、誰にも話しかけられず。飯を食って、寝るだけ。そして『橋渡し』として死ぬんだろうと。ずっと思っていました」

「そんな…」

「でもあなたに『必要だ』と言われて、とてもうれしかった。こんな、つまらない自分でも誰かの役に立てるのだと。必要としてくれる人がいるのだと。戦う力があるのだと初めて知りました。」

「ごめんなさい。あたしが、余計なことを言わなければ…」

「謝らないでください。私は、最後の最後に、ドラゴンになれました。自分の翼を、自分のために使うことができた。自分のために吼えることができました。そして、あなたのために戦えた。あなたは私に誇りを取り戻してくれた。そして死ねる。こんなに幸せなことは、ありません。…自分が何のために生まれたのか、それを知れて死ぬのは…」

ドラゴンはそういって微笑むと、目をゆっくりとじ、二度と動かなくなりました。

ペトラはわっと泣きました。そして、その肩にユリウスが手を置きました。

竜の長は、その姿をじっと見ておりました。

そして、それまで建物の陰に隠れていたルドルフが、安全を見計らってその場に歩いてき、そしてあざけるように笑いました。

「せっかくマスタードラゴンを手に入れたというのに、すぐに失うとは。運が悪いことだな」

長は、そんなルドルフを一瞥しました。

そして、「我々は、この方に選りすぐりのドラゴンを与えるだろう」と言いました。

「ま…ちょっとそれは約束が…!」

「伝説のマスタードラゴンの主。ペトラに我々は最大限の尊敬と協力を惜しまない」

わめくルドルフ。

するとペトラの周りを、戦い終わり、空から舞い降りたドラゴンたちが一匹、また一匹と囲んでいきました。

ユリウスは、周囲を囲むドラゴンの群れに戸惑いながら、ヒーラーに向かってつぶやきました。

「頭を下げてるぜ。あの誇り高いドラゴンたちが…」

ヒーラーはうなずきました。

「この世は天国でも理想郷でもないけれど、だからこそ、あの子の純粋さが人の心を動かして…そういうところが、きっとあの子の…」

そういってふたりは口を閉じ、そのあとしばらく何も言いませんでした。

<つづく>

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コメント

  1. ぴぴお より:

    いつも楽しく読ませて頂いてます!
    感動してしまいました(´°ω°`)
    次回が待ち遠しいです( ˘ω˘ )

  2. アゴりん より:

    私の頭のの中の話ですが、橋渡しが指輪物語のサムと同じ声をしてました。
    なんかほっこりしました、ありがとうございます。

  3. リク より:

    ああ…更新を楽しみにしてました!!
    ドストライクです!!
    とても良かったです!!o(T△T=T△T)o

  4. 名無し より:

    橋渡し………良いやつだった…

  5. 源二郎 より:

    繊細な言葉選び…駆り立てられる衝動…私もマスタードラゴン(ダイソン最新型)でガーゴイル(ホコリ)を島から消します…だからペトラ…ワシの嫁に来るがよい( ^ω^ )

  6. 通りすがりのもの より:

    今回のお話は今までで一番良かった。
    物語に入り込めてとてもいい。
    ペッカの章が待ち遠しい!

  7. お芋 より:

    いつも楽しく拝見させていただておりますが、この、小説は素晴らしい!!
    あと数回とは仰らず、1年スパンで是非お願い申し上げます!

  8. のり より:

    朝から感動をありがとう‼
    めっちゃいい話だった( TДT)

  9. 通りすがって二度見 より:

    ポンタさん、お疲れ様です。
    毎日楽しく拝見させていただいております。(^ω^)
    朝ごはん食べながらウルっときてしまいましたよw
    ガーゴイルと闘う橋渡しの姿が、ぼくの脳内でありありと描かれました。
    素晴らしかったです♪
    次回も楽しみですが、最終回も近づく…(´・ω・`;)
    …うーん、次回も楽しみにしてます!

  10. ピッコロ より:

    感動~・゜・(つД`)・゜・

  11. sunny より:

    泣きそうです…
    次が早く読みたいけど、終わってほしくない…

  12. される人 より:

    いつも拝見させて貰ってますが初めてコメントさせて頂きます。本当に面白いです、更新楽しみにしてますので頑張って下さい‼

  13. くらりん より:

    その書き始め
    テンプレすぎてお茶吹き出しましたw

  14. せつな より:

    更新ありがとうございます(^^)
    今回も読んでいたら目頭が熱くなりました…
    どのような結末を迎えるのか楽しみです。
    外伝もあるかもとのことなので合わせて楽しみにしております!

  15. れい より:

    ただただ感動しました。橋渡しが最後の最後に心を動かされ奮闘した所はついつい入り込みます。

  16. ただのファン より:

    私の大好きなドラゴンの回が感動的なお話でホロリとしました
    これは橋渡しの息子ベビードラゴン(緑色)を託される流れですよね!

  17. ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ より:

    橋渡し🐲🎉💦😂ウルウルしました
    ザビの演説も再度お願い申し上げます🙏

  18. Ponta より:

    >ぴぴおさん
    ありがとうございます。完結まで、あと三章です
    >アゴりんさん
    サムはいいやつです。ただ私は本の印象が強いですだフロドの旦那ぁ!
    >リクさん
    ありがとうございます。またぼちぼち更新していきます!
    >名無しさん
    ありがとうございます。
    >源二郎 さん
    うちもダイソンありますよ。いいですよね。うっさいけど。そしてガーゴイルはくめどつきせぬ真砂のごとし。。
    >通りすがりのものさん
    ペッカ出ますよ!
    ホグ、ペッカ、ゴーレムはたぶん出ます。。

  19. Ponta より:

    >お芋さん
    一年かー。書くのが早い私ですが、小説はけっこうエネルギーが費やされます。一年はたぶん書けないです。。
    ただ生まれてはじめて書いた小説、書けば書くほどコツがつかめてきて面白くなってきたのも事実です。
    >のりさん
    うれしいです。
    ありがとうございます。平凡な人が好きです。
    >通りすがって二度見さん
    ありがとうございます。たたかえ橋渡し
    >ピッコロさん
    ピッコロさんだーいすき!(野沢雅子声)
    >sunnyさん
    すごくうれしいです
    でも終わりに向けてダッシュします
    >される人さん
    初コメありがとうございます。
    ぼちぼち更新がんばります!
    >くらりんさん
    さらなる修業が必要ですね!もっとうまくならねば
    >せつなさん
    外伝はご期待なきよう
    >れいさん
    天才より平凡なひとががんばるのが好きです
    >ただのファンさん
    ドラゴンはいいですね。ファンタジーって感じ。
    子供いるのかな。彼は配偶者には恵まれない一生だったかと
    >顔文字さん
    ザビ。なつかしす

  20. Ponta より:

    ベージュさん
    うふ。ヒミツ。非公開で

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